「銀座が好き」には、理由がある。
私は「銀座」という街が好きです。
かつての私にとってその街は、遠く手の届かないところにある憧れであり、テレビの街頭インタビューに映る世界であり、着飾ったご婦人の闊歩する街でした。
東京に住むようになって、一気に銀座は近しい街となりました。
好きな店があって、週末の会社帰りに足を伸ばせる街。休日にふらりと訪れる街。転居して門前仲町に住むようになると、自宅から自転車で行ける街になりました。
その頃から、私にとって銀座は「東京で好きな街」のベスト3に入る場所となったのです。
でも、その当時の私は、それが「なぜ」なのかはっきりと理解していた訳ではありませんでした。ただ何となく、行きやすい街だと思っていたのです。
車椅子を使い始めて、家人の介助で初めて自宅から地下鉄で銀座へ行ったとき、その第一印象は「車椅子では行きにくい」でした。
乗り換え駅にエレベーターがなく、階段に設置された昇降機を使うために駅員さんを待たねばならなかったり、銀座駅から車椅子で地上へ上がるエレベーターの場所がとても限られていて、歩行時と同じようにはルートが組めなかったからです。
3年前から私は奈良に住んでいて、年に1度は東京へ遊びに行きます。昨年からは、簡易型電動車椅子でひとりで上京するようになりました。
車椅子ひとりで銀座の街を行き来するようになって、初めて気が付いたのです。
銀座中央通りが、いかに通行しやすい歩道なのか。
この写真は、銀座中央通りの歩道から交差点へ下りるところです。
お解りいただけるでしょうか。
歩道と車道の境目に、段差がほぼない状態です。
(↑この写真は上記と同じ場所ではありませんが、同じ銀座中央通りです)
一般的な歩道ですと、境目はやや斜めにカットされていることが多いです。そして、どうしても道路との境目に段差ができます。
こんな風に処理してある歩道が一般的ですよね。
歩道と車道の段差があればあるほど、車道へ下りる場所でスロープ状にする必要があり、境目を完全にフラットにするにはそのスロープが急勾配になってしまいます。おそらく水はけの観点からも、フラットにしにくいのでしょうね。
さて、銀座中央通りの歩道は、決して車道との段差が低い訳ではありません。
実はこれくらいの段差がしっかりあるのです。
なのに、先ほどの交差点への下り口では、急勾配ではありませんでしたよね。
そうなのです。
銀座中央通りの歩道では、「車道へ下りる度に勾配を下りたり上がったりする」ことがほとんどありません。これはきっと、大きなスーツケースやキャリーバッグを転がしながら歩いたことのある人も、思い当たることと思います。
そう。
スムーズなのです。これほどの段差を下りたり上がったりしているはずなのに。
その理由は。
冒頭の銀座の歩道を、もう少し手前から見ると解ります。
お解りいただけるでしょうか。
そうなのです。かなり手前から、勾配が緩やかに始まっているのです。
通行するときに、下ったり上ったりしている感覚がない程度に。
また、車椅子で通行すると、石畳やタイル敷きの隙間を敏感に振動として感じ取るのですが、この歩道はまるでつるりとした床の上を行くようで、ほぼ振動を感じないのです。
これは、広い歩道が設置できて、整備にかかる費用が十分に賄える街だからこそなせる業なのかも知れません。
けれども、確かに、この歩道は通行しやすいのです。車椅子にも、おそらくベビーカーにも、そしてスーツケースやキャリーバッグにも。
もちろん、地下から地上への移動で迷ったり、脇道の歩道では通行に注意すべき路面だったりすることもあるのですが。
好きな理由がはっきりして、とてもスッキリした私なのでした。
ちなみに、銀座中央通り以外でも、歩道と車道との境目に段差がない場所がありました。
こちらは東京の浅草橋で見かけた歩道です。緩やかに斜めになっていますが、滑り止めのラインが入っているので、杖をここについてしまっても滑らず安心です。