電車にひとりで乗れる。
それは、普通に歩いている人にとってはごくごく当たり前のことだと思います。
私も、歩いていた頃はそれが特筆すべきことだとは思っていませんでした。
5年半前に車椅子を使い始めた私は、屋外では自力でこぐのが難しかったので、外出するには必ず家族の介助が必要でした。
電車に乗るときは、駅員さんに声をかけてスロープ板を出してもらうこともあれば、そのまま家族の介助だけで乗ることもありました。
簡易型電動車椅子を使うようになってからは、ひとりで出かけることが多くなり、電車に乗るときは必ず駅員さんに声をかけて、スロープ板をお願いしています。
私が電車に乗るときの手順は、こうです。
- 乗車駅の改札口で、駅員さんに「○○駅まで行きたいので、スロープをお願いできますか?」と声をかける
- 駅員さんが降車駅(乗り換える場合は乗換駅も)に連絡を取ってくれて、ホームまで来てくれる
- 電車が来たら、駅員さんにスロープ板を渡してもらって、乗車する
- 降車駅(または乗換駅)に到着したら、ホームに駅員さんが待機していて、スロープ板を渡してくれるので、降車する
大きな駅では、2.で乗車案内専門スタッフさんが引き継いで、混雑するホームを颯爽と案内してくださったりして、とても心強いです。ただし、案内してもらえるまでにかなり待機することもあります。
簡易型電動車椅子を使いだして、3年を超えた私は、すっかりこの手順にも慣れました。電車に乗るってこういうことだよね、と思っていました。
先日、友人と大阪市内へ遊びに行った時のことです。
行程の途中で、「谷町六丁目」から「心斎橋」まで移動することになり、市営地下鉄「長堀鶴見緑地線」を利用することにしました。
歩いていた頃に何度かこの路線に乗車したことはありますが、車椅子では初めてでした。
だから、知らなかったんです。
地上から地下へ降りた位置が谷町線の改札口に近かったので、そこで駅員さんに聞いたんです。
私「長堀鶴見緑地線に乗りたいんですが、(ここの改札の)中から行けますか?」
駅員さん「行けますよ、そこのエレベーターで降りて…(説明してくれる)」
私「スロープお願いするのは、向こうで駅員さんに頼めばいいですか?」
駅「大丈夫ですよ、そのまま乗れます」
私「えっ」
駅「長堀鶴見緑地線は、車椅子でそのままご乗車いただけます」
>>車椅子でそのままご乗車いただけます<<
このパワーワードたるや!
どういうことなの、と半信半疑になりつつも、駅員さんが仰るんだから間違いないよね、と友人とホームへ向かいました。
長堀鶴見緑地線にはホームドアが設置されていて、通路が狭くても安心です。
「どこから乗ります?」と友人と相談して、こういう会話自体が久し振りだと気がつき浮足立つ私。
そのまま乗れるってことは、降車駅で待機してもらう必要がない(乗るべきドアが指定されない)ので、どこから乗るのも私たちの自由な訳です…!
ホームに滑り込んできた電車も、いつもより近く見えたりして。
ドア前で待つ他の乗客の後ろで待機し、降りる客のあとに乗り込む他の乗客に続いて、そのまま、いざ前進。
おおお。
おおおおお…!
乗れました!!
車椅子でそのまま乗車できる理由は、ふたつ。
- 電車の床とホーム間の隙間が狭い
- 電車の床とホームに高低差がない
このふたつの条件が揃って初めて、車椅子を前進させるだけで乗降できるのです。
降りる時に、友人に写真を撮ってもらいました。
長堀鶴見緑地線の車両とホームの隙間は、約2cm。前輪のキャスターもはまらない程度なので安心です。
スムーズに降りられました。
駅に着いて、黙って改札を通って、ホームに行って。
来た電車の、好きなドアから乗って、着いたらそのまま降りる。
この「歩いていれば全く気にも留めないごくごく普通のこと」が、今の私にとってこんなに興奮する出来事なんだなあと。
乗車した時間はほんのわずかでしたが、いつまでもこの高揚感がおさまりませんでした。
大阪市営地下鉄では、ほかに千日前線でも全駅でこのように対策済みのようです。
参考:大阪市交通局|プラットホームと電車との段差・すき間対策について
ひとりで勝手に乗って勝手に降りられるということは、つまり、途中下車ができるということ。
ふだん降りる駅で待機していただく必要のある私は、途中で思い立って電車を降りることができません。なので、忘れてしまっているんですよね、ふらっと途中下車する楽しみを。
今度は、ぜひとも、何も計画せずにこの路線に乗りたいです。
そして、「あっ、ここで降りてみよう」というあのワクワクを、思い出したいです。