秋の吉野山へ、タクシーで。
奈良の吉野山といえば桜が有名ですが、秋の吉野は紅葉もきれいなのです。
産経新聞奈良版で連載しているコラムの連載日がちょうど紅葉の見ごろ直前だったので、まだ少し時期は早かったのですが友人と一緒に取材に行ってきました。
近鉄吉野駅から吉野山へ向かう場合、通常は吉野山ロープウェイ千本口駅から乗車します。
この先に、「現存する日本最古のロープウェイ」の千本口駅があります。
駅のホームは階段状になっているのと、おそらく車両のドア幅やスペースの関係で、
・介助者がいる(車椅子が運べる)
・杖などを使って少しの距離が歩ける
・車椅子が畳める
これらがクリアできていれば、車椅子で乗車できます。
私の使用している簡易型電動車椅子では上記をクリアするのが難しいので、当初の予定では「七曲り坂」を登るつもりでした。
七曲り坂へは、歩行者は千本口駅の右横からの道を上がっていきますが、ここは砂利道で車椅子にはかなり危険なうえ、この先には段差もあります。
いったん車道へ出て、舗装された道から向かうのだと知りましたが、私たちはその道がうまく見つけられず、駅前で途方に暮れてしまいました。
その時、タクシーの看板を見つけたのです。
普通の車椅子は畳んでセダン車のトランクに積み込むことができますが、簡易型電動車椅子はそこまで畳めない上に、大車輪にある駆動部が繊細なので横倒しにすることができません。
つまり、車椅子をそのまま載せられるタクシーでなければ乗ることができないのです。
いわゆる「福祉タクシー」と呼ばれる、車椅子に乗ったままで乗り込める車両は、たいていの場合は事前の予約制です。そして、運賃のほかに介助の料金がかかります。
でも、せっかく吉野まで来たのだし、取材もしたい。
よし、ダメもとで電話してみよう。
そう思って、そこに書かれていた「相互タクシー」さんに電話しました。
「車椅子のままで乗れるタクシーはそちらにありますか?」
『はい、1台ございますよ』
「えっ(思わずびっくりしている)、それって今から呼んで来てもらえるものですか?」
『はい、空車ですので…ただ準備が必要なので少しお待ちいただけますか?』
「待ちます待ちます(声が裏返っている)」
そして、待つこと約15分。
吉野駅まで来てくれたタクシーが、こちらです。
5人乗りのハッチバック車で、後部座席を畳んでスペースが作られています。
乗り込んだら、運転手さんがガッチリと車椅子を固定してくださいます。
このあと山道をぐねぐねと登りましたが、車椅子はまったくがたつかず、とても安定していました。
正直なところ、車椅子のままで車に乗ることの一番の不安点は「車椅子が揺れて酔うのではないか」ということだったのですが、一切そんな心配は要りませんでした。車椅子の両サイドにあった掴むことのできる金属バーをしっかり握っていたお陰で、普通に車のシートに座るよりも安定していたくらいです。
今回、私たちはとりあえず中千本の竹林院まで乗車しました。
乗り降りの時は運転手さんが手伝ってくださいます。
無事に降車完了です。
このタクシーは、普段は5人乗りの通常のタクシーとして運行されているそうで、車椅子の客を乗せる時だけこういった態勢を整えるとのことでした。
つまり、普通のタクシーと同じく、運賃のみで利用できるのです。
すばらしい!
このようなタイプの車両が、他のタクシー会社さんにも多く配備されるととても助かるなあ、と切に思いました。
さて、竹林院の前から下千本へ向かって下りつつ散策してみたのですが、ここの坂がとても急勾配なのでした。
電動車椅子は完全に車輪を制御できるので、自転車のようにスピードを上げて下っていくことがなく安心なのですが、その電動でも「ちょっと怖いな」と感じる程度には急でした。
路面に砂利や砂があると、車輪が滑るのです。
いくら車輪の回転が制御されていても、止まった車輪が滑るのを留めることはできません。ここではずるずると滑った訳ではありませんでしたが、時折ヒヤッとする感覚があったので、念のため友人に後ろのグリップを持ってもらいながら下りました。
坂を下りてから振り返ると、こんな感じでした。
この坂は避けた方がいいかも知れません…。
ちなみに、上記写真の場所に「勝手神社前」バス停があり、ここから下千本へは勾配が緩やかになります。
お店も並んでいて、いくつかは車椅子で入れそうでした。
ロープウェイ吉野山駅までタクシーに迎えに来てもらって、下山しました。
最初からタクシーに乗ると決めている場合は、近鉄吉野神宮駅から乗車する方が近いとのことです。
今回はまだ紅葉には早かったので、今年はもう一度もっと色づいた頃に再訪しようと思います。
その際には、今回登れなかった七曲り坂にチャレンジしてみたいです。
吉野山の紅葉は、11月中旬から下旬が見頃とのこと。夜のライトアップは11月5日から行われていて、27日までです。
参考
桜の名所 吉野山と共に歩み八十年 吉野大峯ケーブル自動車株式会社